白内障の治療方法としてもっとも一般的に検討されるのが「白内障手術」です。本記事では、白内障手術の概要から手術の流れ、使用する眼内レンズ(IOL)の種類や費用、そして安全性やリスクに至るまで、なるべくわかりやすく解説します。ただし、これはあくまで一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の症状や治療方法については、必ず専門の医師または医療機関へご相談ください。
1. 白内障手術を検討するにあたって
1-1. 白内障と診断されたら
● 白内障とはどのような病気か(簡単なおさらい)
白内障は、水晶体(目の中でレンズの役割をする組織)が白く濁る病気です。水晶体が透明なうちは、光がしっかり通り抜けて視界がはっきり見えますが、濁りが進むと視力が低下し、まぶしさやかすみといった症状が現れます。加齢とともに発症率が高くなるため、高齢者によく見られますが、若い方でも糖尿病や外傷、アトピー体質などが原因となって発症することがあります。また強度近視の方は発症率が高くなります。
● 診断を受けたあとの一般的な流れ
白内障と診断された場合、まずは日常生活にどの程度支障があるか、定期的な検査や点眼治療で経過を観察していきます。まだ進行が軽度であれば、点眼薬による進行抑制や眼鏡の作りかえ、生活上の工夫で対処するケースもあります。
しかし、視力低下が著しくなると、日常生活の質(QOL)を保つために白内障手術を検討することが一般的です。セカンドオピニオンを希望する場合には、専門性の高い眼科医を紹介してもらうのもよいでしょう。
● 「手術」について知っておくべき理由
白内障は手術によって水晶体を取り除き、代わりに眼内レンズ(IOL)を挿入することで根本的な治療を行うことができます。手術は日帰りで行われることが多く、十分ほどで終わるケースが大半です。正しい知識を得ておくことは、治療時期や術後の生活をイメージしやすくし、不安を和らげることにつながります。
1-2. 白内障手術を受けるタイミング
● 白内障手術の時期を決めるポイント
- 視力低下の程度:運転や読書など、普段の生活で支障が出るほど視力が落ちてきた場合
- 生活の質(QOL)の低下:明るい場所で極端にまぶしさを感じる、テレビやパソコンの画面が見づらいなど、日常の行動に大きなストレスを感じる場合
- 医師の判断:合併症がある場合や隅角という目のスペースが狭く緑内障を起こすリスクのある方、角膜や網膜に他の疾患がある場合は、早めに手術をしたほうがよいケースもあります
白内障があっても、視力や症状が軽微であれば手術を急ぐ必要がない場合もあります。逆に、あまりに進行してしまうと手術が難しくなったり合併症が起こりやすくなるため、医師とよく相談してタイミングを見極めることが大切です。
● 「まだ手術しなくても大丈夫?」への回答
白内障手術は、必ずしも「白内障の症状が出たらすぐ手術」が基本ではありません。生活に支障が出ていない段階なら、定期検査による経過観察を続ける選択肢もあります。しかし、日常生活の中で不自由やリスク(転倒など)が高まるようであれば、前向きに手術を検討しましょう。
2. 白内障手術の基礎知識
2-1.白内障手術の概要
● なぜ白内障は「手術」でしか根本的に治療できないのか
白内障では、水晶体そのものが濁ってしまいます。目薬(点眼薬)で進行を遅らせることは可能ですが、すでに濁ってしまった水晶体を元に戻すことはできません。そのため、濁った水晶体を取り除いて新しいレンズ(眼内レンズ)を入れる手術が必要になります。
● 「視力回復」と「視界の質改善」の違い
白内障手術を行うと、単純に視力が上がるだけでなく「眩しさの軽減」や「色の見え方が鮮明になる」など、視界の質全般が向上することがあります。個人差はありますが、日常生活が大きく改善される可能性が高いといえます。
2-2.白内障手術の主な方法
● 水晶体超音波乳化吸引術(PEA法)の流れ
近年、最も一般的に行われる方法が「超音波乳化吸引術」です。主な手順は以下のとおりです。
- 角膜のふちに3ミリ程度の小さな切開を行う
- 超音波の力で濁った水晶体の内容物を砕き、吸引しながら取り除く
- 眼内に人工レンズ(眼内レンズ)を挿入する
切開が小さいため、術後の回復が早く、日帰り手術が可能なケースが多いのも特徴です。
● レーザー白内障手術(フェムトセカンドレーザー併用)の特徴
フェムトセカンドレーザーを用いると、水晶体嚢(のう)の切開や水晶体の砕き方がより正確に行えるため、手術の精度が上がるとされています。ただし、保険適用の範囲ではないため費用は高めになります。医療機関によって設備や実施状況が異なるため、事前に確認が必要です。
● 歴史的手術手法(嚢外摘出術・嚢内摘出術)との違い
超音波乳化吸引術やレーザー手術が主流になる前は、大きく角膜を切開して水晶体全体を取り除く「嚢外摘出術」「嚢内摘出術」が行われていました。現在では手術侵襲(身体への負担)が大きいため、特殊な事情がない限りはあまり用いられていません。
2-3.手術方法による違い・選択肢
● どの方法が適しているかはどう決まる?
- 患者様の白内障の進行度合い
- 角膜や網膜などの合併症の有無
- レンズの選択肢(多焦点や乱視矯正など)
- 医療機関の設備と医師の経験
一般的には保険適用となる「超音波乳化吸引術」が多いですが、レーザー併用手術を導入している施設では、患者さんの希望や適応状況によって選択肢が広がります。
● 患者様のライフスタイル・合併症・医師の判断
ライフスタイルによってレンズ選択も変わりますし、手術方法の細かな違いによって費用や術後の経過が変わってきます。ご自分の趣味や仕事、合併症のリスクなども含めて、担当医と相談しながら慎重に決定することが大切です。
3.眼内レンズ(IOL)の選択肢
3-1.眼内レンズの種類
白内障手術では、濁った水晶体の代わりに人工のレンズ(眼内レンズ)を挿入します。主な種類は次のとおりです。
- 単焦点レンズ
- 近くまたは遠くのどちらかにピントを合わせるタイプ
- 保険適用となるため比較的費用が抑えられる
- 遠くにピントを合わせた場合は近くを見るときにメガネが必要になり、逆に近くにピントを合わせた場合は、遠くを見るときにメガネが必要になるケースが多い
- 多焦点レンズ
- 近距離と遠距離、または中間距離にもピントを合わせられるタイプ
- 保険適用外となるため費用が高額になる場合がある
- メガネの使用頻度を減らせることが最大のメリットとなる
- 焦点深度拡張型(EDOF)レンズ
- 焦点が広い範囲にわたるように設計されており、中間距離の見え方に優れる
- 多焦点レンズよりもハロー・グレア(光がにじんだり眩しく感じる現象)が少ないが、近距離の見え方が弱く老眼鏡が必要になることが多い。
- 乱視矯正レンズ(トーリック)
- 乱視が強い方に向けて、乱視を同時に矯正する設計が施されたレンズ
- 単焦点タイプや多焦点タイプの両方に存在
3-2.レンズ選択のポイント
- ● 遠近両用や乱視矯正レンズを選んだ場合のメリット・デメリット
- メリット:メガネの使用頻度が減る、趣味や仕事での視認性が向上する
- デメリット:暗いところの見えにくさやハロー・グレアと呼ばれる光のにじみや眩しさを感じる可能性がある、費用が高くなる
- ● 保険適用と自由診療による違い
- 単焦点レンズは保険適用(3割負担の場合、費用が比較的安価)
- 多焦点やEDOFは保険適用外となるケースが多く、手術費用+レンズ代が高額になる
- ● 生活・仕事・趣味に合わせたレンズ選択の考え方
- 細かい手元作業が多い方、パソコン作業が中心の方、アウトドアや運転が多い方など、それぞれのライフスタイルに合わせてメリット・デメリットを考慮する必要があります。
4.費用・保険について
4-1.白内障手術の費用相場
- ● 保険適用の場合の自己負担の目安
- 単焦点レンズを用いた白内障手術は公的医療保険の適用内で行えるため、3割負担の場合は両目で5万円~10万円程度が一般的(手術内容や入院・通院の有無で変動)
- 高齢者の場合は医療費負担割合や限度額適用制度により、実際の負担がさらに軽減されるケースもあります
- ● 多焦点レンズを選んだ場合の費用感
- 多焦点やEDOFレンズを選択すると、レンズ代が保険適用外となるため、高額になりやすい傾向があります
- ごく一部の多焦点レンズは選定療養です
4-2.保険制度と公的補助
- ● 健康保険、高額療養費制度、医療費控除
- 健康保険が適用される白内障手術であれば、高額療養費制度を利用することで自己負担が一定額に抑えられます
- 医療費控除の対象になる場合もあるため、確定申告時に領収書を忘れずに提出しましょう
- ● 民間保険の適用可否
- 適用範囲は保険会社によって異なるので、事前にしっかり確認することをおすすめします
4-3.支払い・費用面での不安解消
- ● 具体的な支払方法
- クレジットカード対応や分割払いに対応している医療機関も増えてきています
- 必要に応じて、医療ローンなどを利用する方もいらっしゃいます
- ● 事前に確認しておくとよいこと
- レンズの種類ごとの費用目安
- 健康保険や高額療養費制度の適用範囲
- 民間保険の給付内容
費用面で不明点が多いと、どうしても不安が高まります。手術を決める前に、費用や支払い方法、保険の適用範囲について、必ず医療機関のスタッフや保険会社に確認するようにしましょう。
5. 白内障手術の安全性・リスク
5-1.手術成功率と合併症の可能性
● 国内の統計データ
白内障手術は国内で年間100万件以上行われており、医療技術の進歩によって成功率は非常に高いとされています。視力の改善効果も高く、多くの患者さんが満足できる結果を得ています。
● 白内障手術で起こり得る合併症
- 後発白内障:術後しばらくして挿入したレンズの周囲の水晶体嚢が濁ってくる現象。レーザー治療で改善可能。
- 感染症:ごくまれに起こるが、適切な消毒や点眼薬でリスクを最小限に抑える。
- 網膜剥離:強度近視の方や眼底に問題がある場合にリスクが高まる。早期発見が重要。
● それぞれの発生率と対処法
後発白内障は比較的頻度が高めといわれますが、専用レーザー(YAGレーザー)による数分の治療で改善できることがほとんどです。感染症や網膜剥離は発生率自体は低いものの、発症した場合には追加治療が必要となるため、術後の経過観察が大切です。
5-2.術前・術後の注意点
● 術前の服薬確認やコンディション管理
- 服用中の薬(血液をさらさらにする薬など)がある場合は、術前に主治医へ必ず伝えてください
- 手術日が近づいたら、風邪や感染症の予防を心がけ、体調を整えておくことが重要です
● 術後の点眼・生活制限と注意すべき症状
- 点眼薬:感染予防や炎症を抑えるため、医師の指示に従って正しく使用しましょう
- 生活制限:数日~1週間程度は目を強くこすらない、洗顔時は石鹸やシャンプーが目に入らないよう注意するなど、一定の制限があります
- 通院の目安:
- 手術翌日:初回診察
- 1週間後:術後の回復状況や視力をチェック
- 1ヵ月後:術後の回復状況や視力をチェック
- 注意すべき症状:術後に激しい痛みや急激な視力低下、強い充血がある場合は、すぐに医療機関へ連絡してください
術後の経過観察やこまめなフォローアップは、合併症の早期発見と早期対応に不可欠です。医師の指示を守り、定期的な通院を怠らないようにしましょう。
【まとめ】
白内障は加齢などによって水晶体が濁り、視力低下やまぶしさなどの症状が現れる病気です。点眼薬で進行を遅らせることはできますが、根本的な治療には水晶体を置き換える手術が必要です。近年は日帰り手術が主流となり、眼内レンズ(IOL)の選択肢も多様化しています。
- 手術のタイミングは、視力低下の度合いや日常生活への影響を目安に医師と相談しましょう。
- 手術方法は「超音波乳化吸引術」や「レーザー併用」などが主流で、どの方法が最適かは使用するレンズや手術の目的、設備によって変わります。
- 眼内レンズ選びは、単焦点・多焦点・EDOF・乱視矯正レンズなどがあり、それぞれにメリット・デメリットがあります。生活スタイルや費用を考慮して検討することが大切です。
- 費用・保険に関しては、保険適用であれば自己負担が軽減され、多焦点などを選ぶ場合は費用が高額になる傾向があります。高額療養費制度などの活用も含めて事前に確認しておきましょう。
- 安全性とリスクは、手術の成功率自体は非常に高い一方で、後発白内障や感染症、網膜剥離などのリスクもゼロではありません。術前・術後のケアや定期検査をしっかり行うことで、安全性を高めることができます。
※白内障手術は保険適用、選定療養、自由診療の選択肢がありますが、当院では患者様の快適な術後生活を考え、第一に最先端の5焦点レンズや3焦点レンズを用いたレーザー白内障手術(フェムトセカンドレーザー併用)による自由診療手術をお勧めしております。