視界がぼやけて見えたり、眩しさを感じるようになったり——。「もしかして白内障？」そんな不安を感じることはありませんか？白内障は早期発見・適切な治療で視力を取り戻せる病気です。この記事では、初期症状の見分け方から検査、治療法まで、専門的な情報をわかりやすくお伝えします。
【目次】
【目次】
1. 白内障とは：基礎知識
白内障は目の水晶体が濁ることで起こる病気です。水晶体は本来透明ですが、加齢などによってタンパク質が変性し、濁りが生じます。初期段階では自覚症状がほとんどないこともありますが、進行すると視界がぼやけるなどの症状が現れます。
ポイント：白内障の有病率は年齢とともに増加します。厚生科学研究班の報告では、白内障の初期の混濁を含めた有病率は、50歳代で37～54%、60歳代で66～83%、70歳代84～97%、80歳以上で100%とされており高齢者の視機能低下の主要原因となっています。
2. 白内障で感じる自覚症状
白内障が進行すると、次のような症状を自覚するようになります。
視界のかすみ・ぼやけ
ポイント：白内障の最も典型的な症状は「視界のかすみ」です。物がはっきり見えず、まるで霧がかかったように感じます。また、色が薄く見える（色あせて見える）こともあります。
まぶしさとハロー現象
白内障が進行すると、昼間の強い日差しや夜間の対向車のライトがまぶしく感じるようになります。また、光源の周囲に輪（ハロー）が見えることもあります。
夜間視力の低下
暗い場所での視力低下や、夜間の運転で見づらさを感じることがあります。特に夜間運転時に困難を自覚することが多いようです。
複視（一つの物が二重に見える）
片眼で物が二重に見えることがあります。白内障の進行で一時的に二重視が改善することもあります。
度数変化（近視化）
眼鏡やコンタクトレンズの度数が合わなくなり、頻繁に処方を変える必要が出ることもあります。
ポイント：初期には症状が軽微なため気づかないこともありますが、進行につれて読書や細かい作業に支障をきたすようになります。明るい照明がないと読めない、人の表情や交通標識が見えにくいなど、日常生活に影響が出てきます。
白内障に似た症状との違い
白内障の症状は他の眼疾患と共通することがあります。専門医は以下の疾患との鑑別を行います。
- ・屈折異常（近視・遠視・乱視の未矯正）
- ・緑内障（視野狭窄や視神経萎縮による視力障害）
- ・加齢黄斑変性（中心視力のゆがみ・欠損）
- ・糖尿病網膜症（網膜出血や浮腫による視力低下）
- ・角膜混濁・角膜変性（角膜の濁りや形状異常による視力低下）
- ・視神経萎縮や網膜色素変性症（視野狭窄・夜盲などの症状）
これらは眼底検査や視野検査で評価し、白内障が主因であることを確認します。白内障と他疾患の合併もあり得るため、総合的な診断が重要です。
3. 初期段階での気づき方
セルフチェックポイント
以下のような変化を感じたら、白内障の可能性があります。
- ・テレビの字幕が読みにくくなった
- ・夜間運転でまぶしさを感じるようになった
- ・最近、眼鏡を何度変えても見え方がすっきりしない
- ・明るい所から暗い所に入ったとき、目が慣れるまでに時間がかかる
ポイント：「物がかすむ」「まぶしい」といった症状に気付いて眼科を受診することで、白内障の早期発見につながります。これらの症状に気づいたら放置せず、早めに眼科検診を受けましょう。
4. 原因・リスク要因
加齢要因
白内障発症リスクは加齢に伴い飛躍的に上昇します。80歳以上の約半数が白内障を患うか手術を経験しているというデータもあります。
その他のリスク要因
若年でも以下の要因で白内障リスクが高まります。
- ・糖尿病など代謝疾患（血糖コントロール不良は白内障を早めます）
- ・喫煙習慣（長年の喫煙はリスクを数倍に高める）
- ・ステロイド薬の長期使用（副作用で白内障が進行）
- ・目の外傷や眼内手術歴（外傷性白内障）
- ・強い紫外線曝露（水晶体タンパク変性を促進）
- ・遺伝要因（家族に白内障の発症が早い人がいる場合）
先天性（小児）の白内障もまれにありますが、全体としては高齢者の加齢性白内障が大部分です。
5. 検査・診断方法
白内障が疑われる場合、眼科では以下のような検査を総合的に行います。
視力検査
裸眼視力および矯正視力（眼鏡・コンタクトレンズ装用時）を測定します。白内障による視力低下の程度を把握し、他の原因による視力低下との鑑別にも役立ちます。ただし、白内障の濁り具合と視力低下は必ずしも比例しないことに留意が必要です。
細隙灯顕微鏡検査
ポイント：白内障診断に必須の検査です。細隙灯顕微鏡という強い光と拡大鏡を使って角膜・虹彩・水晶体など前眼部を詳しく観察します。この検査で水晶体の混濁の部位・程度（核硬化、皮質白内障、後嚢下混濁など）を直接確認できます。
眼底検査
検眼鏡や細隙灯装着の対物レンズを用いて網膜（眼底）や視神経乳頭を観察します。白内障があっても瞳孔を通して網膜の血管走行や黄斑部、視神経の状態を確認し、他の疾患（例：黄斑変性や緑内障による視神経萎縮）の有無を調べます。
その他の検査
- ・散瞳検査：瞳孔を広げて水晶体全体の混濁状態をより正確に評価します
- ・光干渉断層計（OCT）検査：必要に応じて黄斑部の断層画像を撮影します
- ・眼圧測定：併存する緑内障のスクリーニングなどを行います
以上の検査結果を総合し、白内障の有無・程度、他の目の病気の有無を診断します。白内障は臨床診断が基本であり、画像診断や血液検査などは不要です。
6. 白内障の治療法
手術療法
白内障の治療は現在、手術（白内障手術）による水晶体摘出と眼内レンズ(IOL)挿入が唯一の根本的手段です。初期には点眼薬等で進行抑制を図る試みもありますが、その効果は限定的で、進行した白内障を透明に戻すことはできません。
現代の白内障手術は主に超音波乳化吸引術で行われます。角膜縁から小切開を行い、超音波プローブで水晶体核を乳化して吸引除去し、その後に折りたたみ式の人工水晶体（眼内レンズ）を挿入します。
眼内レンズの種類
白内障手術では濁った水晶体を除去した後に眼内レンズを挿入しピント調節機能を補います。眼内レンズには以下のような種類があります。
- ・単焦点眼内レンズ：一つの距離にピントを合わせる設計のレンズです
- ・多焦点眼内レンズ：遠方と近方（場合により中間距離も）の複数焦点にピントを合わせる構造を持つレンズです
- ・乱視矯正眼内レンズ（トーリックIOL）：角膜や眼球の乱視がある患者向けに、乱視度数を補正する設計が入ったレンズです
ポイント：患者の生活様式や職業、目の状態によって最適なレンズ選択は異なるため、手術前に専門医と十分に相談することが大切です。
手術のタイミング
手術のタイミングは個別に異なりますが、「急がなくても白内障手術の結果（難易度）は基本的に変わらない」ことが知られており、患者の希望と生活状況に合わせて計画します。
ポイント：「白内障による機能障害が本人の生活にどの程度影響しているか」が重要です。白内障によって生活の質(QOL)が低下している場合、視力数値に関わらず手術が推奨されます。
7. 医療機関受診のすすめ
白内障の初期症状に心当たりがある方は、ぜひ眼科専門医の診察を受けることをお勧めします。早期発見により、適切な時期に治療を始めることができます。
また、定期的な眼科検診も重要です。60歳以上では1～2年に一度は散瞳眼底検査を含む包括的な眼科検診を受けるよう推奨されています。早期発見すれば慌てずに対処法を検討できます。
ポイント：白内障手術は眼科領域で最も施行数が多い手術であり、その技術は確立されています。安全性は非常に高く、深刻な合併症発生率は低く抑えられています。米国国立眼研究所（NEI）は「白内障手術は安全で、受けた人の90%以上で視力改善が得られる」と報告しています。
8. よくある質問
Q1: 白内障は完全に予防できますか？
A1: 専門家の見解では「完全に発症を防ぐ確立した方法はない」とされています。ただし、紫外線対策や禁煙、バランスの良い食事など、生活習慣の改善によって発症や進行を遅らせる可能性があります。
Q2: 白内障の手術は痛いですか？
A2: 現在では日帰りの局所麻酔手術が主流で、手術時間も10～20分程度と短時間です。局所麻酔により痛みはほとんど感じません。術後に軽い違和感を感じる程度で、強い痛みを伴うことは稀です。
Q3: 手術後はどのくらいで回復しますか？
A3: 白内障手術後の視力は早ければ翌日～数日で改善し始め、多くの患者は術後1週間程度で日常生活に支障ない視力を取り戻します。最終的な視力安定には4～8週間ほどかかりますが、概ね術後数週間でほぼ安定します。
Q4: 白内障手術の費用はどのくらいですか？
A4: 白内障手術（超音波乳化吸引術＋眼内レンズ挿入）は健康保険適用の医療行為です。診療報酬上の手術費用は片眼あたりおよそ15万円前後とされていますが、患者負担は保険の自己負担割合によります。1割負担の高齢者であれば15万円の1割＝15,000円が自己負担額となります。
Q5: 術後の生活で注意することはありますか？
A5: 術後数週間は感染予防のため、点眼を確実に行い、目をこすったり水が入るのを避けます。軽い日常動作は翌日から可能ですが、重い物を持つ・激しく体を動かす運動は1～2週間ほど控え、完全な運動再開は術後約1か月が目安です。
9. まとめ
白内障は加齢とともに誰にでも起こりうる眼の病気です。初期症状に気づいたら早めに眼科を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。現代の白内障手術は安全性が高く、多くの患者さんが視力を回復し、生活の質を向上させています。
定期的な眼科検診と健康的な生活習慣で、大切な目の健康を守りましょう。
